脳性麻痺のSさんが描く未来 シェアハウスという新しい自立のかたち

義肢装具ユーザーのリアルストーリー

こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。

今回の記事は、Xを通じて出会った装具ユーザーSさんへの取材をもとにまとめたものです。

Sさんは、胎児期~生後まもない時期に脳が傷つくことで起こる「脳性麻痺」という障害を抱えた30代の女性です。

そんなSさんが長年使用している装具の作り替えで直面したトラブルや、Sさんが目指す今後の生活のあり方についてご紹介します。

記事内では、プライバシーに配慮し、お名前や所属、地域など個人が特定される情報は伏せています。

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装具とともに歩んできた生活

脳性麻痺であるSさんの主な症状は、手足の運動障害と知的障害で、両足に麻痺による内反があるため、短下肢装具を使用している。

Sさんと装具との付き合いはとても長く、物心つく頃からずっと装具を使っていた。装具は成長に合わせて何度も作り替え、そのたびに同じ製作所に装具を作ってもらっていた。

Sさんの身体の特徴や障害をよく理解してくれていて安心できる製作所だったし、なにより他の製作所を選ぶという感覚がなかった。

大人になってからは車椅子を使う機会が増え、身体の成長も止まったため、装具を作り変える頻度が格段に減った。

ところが数年前、久しぶりに装具を作り変えることになったときに状況が変わる。その時に入院していた病院には指定の製作所があり、長年お願いしていた馴染みの製作所では作ることが出来なかったのだ。

出来上がった装具は、残念ながらSさんの足に合わなかった。調整を重ねても違和感は消えず、痛みを抱える日々が続いた。

さらに問題だったのは、調整の方法だった。手直しをお願いするたびに、装具を作った病院まで行かなければならない。

ところが、その病院は自宅から遠方にあり、退院後に何度も装具調整のために通うことは大きな負担になった。

結局、装具は完全に足に合わないまま耐用年数である3年が過ぎ、ようやく以前からお願いしていた馴染みの製作所で新しく足に合った装具を作り直すことが出来た。

この経験から、Sさんは実感したという。

同じ短下肢装具でも、製作所によって作り方や調整の対応が大きく違うということ。

そして、毎日使う装具が足に合わないということが、日常生活をとても不便で苦しいものにするということ。

生活の中で使い続ける装具だから、自分が信頼している製作所で足に合ったものを作ってもらうことがとても大切であると改めて考えるようになった。

就労施設における見えない障害との向き合い方

Sさんは身体障害だけでなく、知的障害も併せ持つ重複障害がある。

ただ、会話は普通に成立するため、周囲からは「しっかりしている人」に見られることがある。

身体障害は目に見える部分が多いが、知的障害は外見ではわからない。そのギャップが時に誤解を生むことがある。

Sさんは現在、週に4日就労継続支B型事業所に通っており、袋詰めや梱包などの軽作業を行っている。

就労継続支援B型とは

障害や難病のある人が利用できる障害福祉サービスのひとつ。
障害などの理由から、一般企業で働くことが難しい方に対して、就労の機会や生産活動の場を提供する。
就労継続支援B型に通うと、働くために必要な知識や能力向上のための訓練が受けられるほか、生産活動への対価として「工賃」を受け取ることができる。

就労継続支援B型のメリットは「障害による困りごとの状況や症状などに合わせて、無理のないペースで働くことができる」ということ。事業所ごとに決まりはあるが、働く時間や日数についても相談できる場合が多い。それぞれの障害について理解を得ながら働くことができるので、安心して継続的に働きやすい。

就労継続支援A型との大きな違いは「企業と雇用契約を結ぶかどうか」という点。就労継続支援A型の場合は事業所と雇用契約を結ぶため、最低賃金が保障されている。一方で、就労継続支援B型は雇用契約を結ばないため、最低賃金が保証されるわけではない。

厚生労働省の調査によると、就労継続支援B型の平均月額工賃は「16,507円」、時間給にすると「233円」程度である。(令和3年度時点)

以前、通っていた就労施設では知的障害が十分に理解されず接されてしまい、職員や仲間との人間関係のトラブルに繋がったこともあった。

過去にはそういった人間関係のトラブルもあったが、今は理解のある事業所で楽しく通うことが出来ているという。

家族の支えと自立について

Sさんは現在、両親と同居しており、身の回りのことや就労施設への送迎など、生活の多くはお母さんが支えてくれている。

お母さんは60代で専業主婦をしており、娘のことをとても大切に思って心配もしている。その思いはときに強く、Sさんが自分の意思で外に出て行動することに慎重になる場面もあるという。

Sさんは、両親が大切に思ってくれていることは十分に理解しているものの、管理が厳しく感じられ、息苦しさを覚えてしまうこともあるそうだ。

その上で、将来を考えると「自分の生活を自分で作ること」も大切だと感じはじめている。

Sさんの今後の目標

今、Sさんには1つの目標がある。

友達と一緒に、障害者向けのシェアハウスで暮らすことだ。

実家を出て、自分の生活を少しずつ作っていきたい。その思いについて、両親も理解を示し、前向きに考えてくれているという。

障害者向けシェアハウスは、普通のシェアハウスとは少し違う。

まず、建物はバリアフリー設計が施されていて、車いすや身体障害がある人でも安心して生活できるように工夫されている。

さらに、介護や福祉の専門知識を持つスタッフのサポートを受けることもできる。

一般的な障害者向けグループホームよりも、入居者の自由度が高いことも特徴の一つだ。生活のルールが比較的ゆるやかで、入居者同士の交流や主体的な生活が大切にされている。

つまり障害者向けシェアハウスは「守られる場所」だけではなく「自分の生活を作っていく場所」でもある。

障害のある人の自立というと「完全に一人で生活すること」をイメージする人も多い。

でも現実はもっと柔軟でバリエーションがあるものだ。支え合いながら暮らすこと。必要なサポートを受けながら、自分で生活を選ぶこと。それも立派な自立。

Sさんが目指しているシェアハウスでの暮らしは、まさに障害のある人の自立生活の一つであると言える。

障害者グループホームと障害者向けシェアハウスの違い

障害のある人が地域で生活するための公的支援として、障害者グループホーム(共同生活援助)があり、数人で共同生活を送りながら生活支援を受けられる。
グループホームは福祉制度として位置づけられた住まいであり、支援内容や運営の仕組みが法律に基づいて整えられている。

一方で、障害者向けシェアハウスは、グループホームと似ているように感じるが制度の仕組みに違いがある。
障害者向けシェアハウスは特定の法律があるわけではなく、基本的には民間の住宅サービスとして入居契約を結ぶ。そこで、必要な福祉サービス(居宅介護や訪問看護など)を自分で選んで組み合わせて利用する。そのため、より自由度の高い共同生活が実現できる。

どちらも、障害のある人が地域で自分らしく生活するための大切な選択肢である。


障害のある子供が成長し大人になったとき、多くの家庭が直面するのが「親からの自立」という課題です。

実際、障害のある人が親元を離れて暮らすことは簡単ではありません。長年支えてきた親にとっても不安は大きく、親子ともに一歩踏み出す勇気が出ずに迷ってしまうことは自然なことです。

その中で、Sさんが将来の生活について前向きに行動しようとしていることは、自立への大きな力となります。周囲の支えを受けながら自分らしい生活の形を少しずつ見つけていく。そんなSさんの挑戦をこれからも暖かく応援していきたいと思います。

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最後に私がSさんのお話を聞いて痛烈に思い起こした書籍をご紹介します。ご興味がある方は、ぜひご覧ください。

障害者の自立支援の在り方について最も深く考えさせられた本です。10年以上前に発刊された本ですが、障害者むけシェアハウスのことについてもとてもリアルに描かれた本です。

映画化されたことでも有名ですが、より深い視点で障害者の自立支援を知りたいという人は書籍をおススメします。一応DVDのリンクも貼っておきます。

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この連載では、装具とともに暮らす方々のリアルな声を届けています。

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