脳卒中後の歩き方の「クセ」が関節に負担をかける理由

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こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。

脳卒中後に、再び自分の足で歩けるようになることはとても大きな回復です。

ただ、リハビリのゴールは「歩けるようになること」だけではなく、歳を重ねても痛みや大きな不調を抱えずに歩き続けられること、でもあると私は考えます。

一時的に歩けるようになることと、5年後10年後も自分の足で生活できることは別の話です。

「今、歩けているから大丈夫」ではなく、今の歩き方が関節にどのような負担をかけているか、負担を減らすにはどうすればよいのかを知ってもらうことが、この記事の目的です。

全てを改善することは難しいですが、日々の生活で少し意識をすることで、身体への負担の積み重ねは確実に減ります。

ただでさえ、いつも大変なリハビリを頑張っている皆さんはあまり意気込まず、軽い気持ちで読んでみてください。

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脳卒中後に歩き方が変わる理由

麻痺よりも「代償運動」が原因

脳卒中後に歩き方が変わる原因は、単に「足の筋肉が弱くなったから」だけではなく「脳から身体への指令の出し方が変わってしまった」ことにあります。

脳卒中では、手や足の筋肉に麻痺がおこるのと同時に、本来は無意識に出来ていたはずの関節の動きのタイミングが噛み合わなくなることがあります。

そこで本来の動きの代わりに「他の動き」でなんとか安全に歩こうとします。これが「代償運動だいしょううんどう」です。

たとえば、足が上に持ち上がらなかったら、足を外に回して振り出そうとする。膝が不安定だったら、膝を伸ばし切って安定させる。などです。

この代償運動が、歩き方のクセに繋がります。

完璧を目指さなくてもいい

ここで知っていただきたいのは「代償運動」やそれによっておこる「歩き方のクセ」を完全になくす必要はないということです。

どうしても「元通りの歩き方に戻さないといけない」と思ってしまう人も多いですが、大切なのは関節に過度な負担をかける動きを減らすことです。

完璧な正常歩行を目指す必要はありません。

脳卒中後の今の身体で、一番安全に、一番長く使い続けられる歩き方を目指しましょう。

そのためには、多少左右差があっても大丈夫、動きがスムーズでなくても大丈夫、杖や装具に頼っても大丈夫、だと私は思っています。

まずは、次の項目でどのようなクセがどんな負担を生むのかを理解しましょう。

よくある歩き方のクセと問題点

ここから脳卒中後の歩行でよくあるクセをご紹介しますが、全てのクセを完全になくさなければいけないわけではありません。

まずは、どういう理由でこのクセが出ているのか。このクセによってどのような問題が起きやすいのかを知ることが大切です。

ぶん回し歩行

脳卒中後の歩行でよく見られるのが、麻痺側の足を外側に大きく振り出して歩く動きです。

「ぶん回し歩行」外転がいてん歩行」と呼ばれます。

本来、歩くときは足をまっすぐに振り出すと同時に膝を曲げて足首を上げることで、足を地面に擦らないようにします。

「股関節と膝が十分に曲がらない」「足首が上がらない」という状態で、うまく足を擦らずに歩くために「ぶん回し歩行」はとても合理的な代償運動です。

このぶん回し歩行を続けることによる問題点を以下に挙げます。

ぶん回し歩行の問題点

  • 麻痺側の股関節への負担
    股関節を過度に開いて外向きに捻じる動きが繰り返されることで、股関節の外側に負担がかかる。
  • 腰への負担
    麻痺側をぶん回すために骨盤を傾ける動作が続くことで、腰への負担がかかる。
  • 健側への負担
    骨盤を傾けて健側に体重をかけすぎるため、健側の股関節や膝に負担がかかる。

膝のロッキング

脳卒中後の歩行で、もう一つよく見られるのが、歩くたびに麻痺側の膝を「ピン」と伸ばし切って固定する動きです。

これは膝のロッキング、反張膝、バックニーなどと呼ばれます。

本来、歩行中の膝は、着地の瞬間にわずかに曲がって体重を受け止め、徐々に膝を伸ばして足を蹴りだします。

これは「麻痺側の膝が不安定」な場合に膝を伸ばし切って固定することで、膝が折れて転びそうになるのを防ぐ代償運動です。

この膝のロッキングを続けることによる問題点を以下に挙げます。

膝のロッキングの問題点

  • 麻痺側の膝関節への負担
    膝を伸ばしたまま体重を受けることでクッションが働かず、膝関節に過度な負担がかかる。
  • 麻痺側の膝関節の変形
    人によっては膝が逆くの字に変形し、膝の後ろに炎症が起こることがある。
  • 麻痺側の足首の過緊張
    膝を伸ばすのと同時に、足首を下向きに突っ張る動きが強くなり、足首の変形や過度な緊張に繋がる。

麻痺側の不使用

最後にもっともシンプルな歩行のクセでよく見られるのが、麻痺側の足を無意識のうちに使わなくなっていく現象です。

表面的には、ちゃんと両足で歩いているように見えますが、よく見ると麻痺側の足にほとんど体重を乗せずに歩いていることがあります

この場合、麻痺側の歩幅に比べて健側の歩幅が極端に小さくなります。これは、麻痺した足で身体を支える時間を短くするためです。

理由はわかりやすく、麻痺側に体重を乗せると不安定だからです。

「危ない側は使わずに安全な側で支えよう」というのは自然なことですが、極端に麻痺側を使わなくなってしまうと以下のような問題が起こります。

麻痺側を使わなくなる問題点

  • 健側への負担
    本来は左右で分け合って支えるものを片側で支えることになるので、当然健側の負担は増える。
  • 麻痺側の機能低下
    使っていない筋肉や関節は使っている筋肉や関節より、早く弱って動きにくくなる。

短下肢装具でできることは?

短下肢装具と言っても、様々な種類、機能がありますが、ここではシンプルなリジットシューホン(足首を90度に固定するタイプ)を想定して説明します。

プラスチック製短下肢装具について詳しくはこちらの記事をご覧ください。

麻痺側の足首を持ち上げる

麻痺側の足首が下がってしまうことで、足が地面に擦りやすくなり、その結果ぶん回し歩行に繋がります。

それに対して、装具で足首が90度に固定してあげると、足先を擦る危険が減って足をまっすぐに振り出しやすくなります。

股関節や膝の曲げにくさは変わらないので、完全にぶん回し歩行がなくなるわけではありませんが、それでもぶん回しを小さくする効果は十分にあります。

麻痺側の不安定感を減らす

足首を90度に固定することで、膝がガクッと折れるリスクを減らします。それと同時に、足首を突っ張って膝をピンと伸ばす動きを防ぐことが出来ます。

さらに短下肢装具で麻痺側の安定性を得ることで、麻痺側に体重をかけやすくなり、麻痺側の不使用を防ぐことに繋がります。

合っていない装具の問題

装具が合っていないというのは、サイズが合っていない、当たって痛い、といった問題だけではありません。

装具を着けているのに足先が下がって、ぶん回し歩行が大きくなってしまっている状態や、装具を着けているのに、膝のロッキングで安定性を得ているような状態も「装具が合っていない」と言えます。

特に以前よりも歩行のクセが強くなった場合は、装具がだんだんと合わなくなっているサインであることが多いです。

身体の変化は徐々に起こっていくものなので、本人や身近な人は気づかない場合も多いです。

「以前より歩ける距離が減った」「転倒が増えた」「関節に痛みが出た」といった場合、ただの老化ではなく装具が合わなくなっている可能性もあります。

装具の耐用年数がすでに過ぎているような場合は、一度、医師やセラピスト、義肢装具士など専門家に相談してみましょう。

装具の耐用年数に関してはこちらでご確認ください↓


以上が脳卒中後の歩き方のクセに関する解説でした。

脳卒中後の歩行のクセは全て、その人が麻痺した足で安全に歩くために無意識に選んだ答えです。

むやみに歩行のクセをなくそうとすることは、転倒リスクにもつながります。

自身の歩行のクセとその理由を知ることで、装具をなぜ着けるのか、装具をはずすときは何に気をつけたらよいか、を理解することが出来たかと思います。

この記事が、皆さんにとってより長くより実用的に歩き続けるための助けとなれば幸いです。

最後に脳卒中の在宅生活に関するおすすめの書籍をいくつか紹介します。ご興味がある方は、ぜひご覧ください。

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