こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。
今回の記事は、Xを通じて出会った装具ユーザー”やす@KAFOuser”さん(以下、Yさん)への取材をもとにまとめたものです。
ぜひ、やすさんのXアカウント(@KAFO_User)も一緒にチェックしてみてください。
Yさんは、進行する病と向き合いながらも、自分らしい暮らしを実現するための手段として、装具を使っている方です。「装具作製で大切なことは、ユーザーと製作者との意思疎通だ」とYさんは語りました。
そんなYさんが装具とどう向き合い、自分の思いを製作者に伝えるためにどのような工夫をしているのか。
さらに、装具作製の過程で直面した困難や障壁にも触れながら、そのリアルな体験をご紹介します。
記事内では、プライバシーに配慮し、お名前や所属、地域など個人が特定される情報は伏せています。
装具との出会いから診断までの道のり
初めの装具は「膝装具」
Yさんが装具と出会ったのは、今から約25年前のこと。
当時は左膝の痛みがあり、歩くと不安定さを感じる程度だったため、軟性のニーブレースでサポートしていた。
しかし、時間が経つにつれて膝折れや転倒が増え、徐々に歩行の安定が難しくなっていった。
8年前には、膝の不安定さが顕著になり、整形外科で膝がロックできる支柱付き膝装具を作製。この頃から、歩くための補助具として装具が生活の一部になっていった。
さらに4年前には下垂足が現れ、長下肢装具へと移行し、身体障害者手帳も取得した。
その後、整形外科では特に異常は見つからなかったものの、体の変化は止まらず、3年前に別の病院でALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されることになる。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは
手足の筋肉を動かす神経が少しずつ働きにくくなる進行性の難病です。筋肉が痩せて動きにくくなることで、歩くことや手を使うこと、話すことや飲み込むことが、徐々に影響を受けます。
知能や感覚は基本的に保たれるので、体は動きにくくても、頭や思考は明瞭であるのが特徴です。
原因はまだはっきりわかっておらず、根本的な治療法も確立されていません。
だからこそ、リハビリや装具、補助具などを使って、生活の質を保つことが大切です。
診断までには検査入院が必要だったが、コロナ禍の影響もあり、受診をためらう時期もあったという。
こうして、Yさんと装具の長い付き合いが始まった。
現在、使用している装具
Yさんは、筋力低下が特に顕著な左側を中心に装具を使用している。生活を支えるため、左側の下肢・肩・手首に装具を装着している。
それぞれの装具の特徴を簡単に説明すると
左長下肢装具
膝を軽く曲げた状態で膝関節をロックできる構造になっており、体重を効率的に支えながら歩行をサポートする。足首は歩行の妨げにならない程度に可動するため、自然な体重移動が可能である。足部はプラスチック製の二重シェルになっており、踏み返しを妨げない構造となっている。
左肩装具(オモニュレクサ)
亜脱臼になりやすい筋力低下のある肩関節を懸垂するための装具。上腕部と前腕部を連結することで、腕を使いやすい位置(良肢位)に導き、日常動作を助ける役割も持つ。
オモニュレクサについて詳しく知りたい方はこちら↓
左手関節装具(カックアップ装具)
手首を良肢位に固定することで、手が握り込んでしまうのを防ぎ、日常生活の動作をサポートする。
指の動きは妨げず、手首を支えるプラスチック製の装具。拘縮や握り込みの防止のために、手関節装具は夜間も使用している。
これらの装具はすべて、Yさんが今できる動きを妨げずに、生活動作をサポートすることを目的に作られている。単なる医療器具ではなく、「生活の質を上げる道具」として欠かせない存在になっている。
手関節の拘縮予防装具について詳しく知りたい方はこちら↓
仕事を退職、そして自由な時間
Yさんは膝装具を使い始めた頃も、デスクワークの仕事を続けていた。膝の不安定さを補う装具があったからこそ、仕事も支障なくこなせていたという。
しかし、ALSと診断されてからは、体の変化を受け止めつつ、生活の優先順位を見直すことになった。二年前に早期退職を決意し、それ以降は家族との時間や、自分がやりたかったことを大切に過ごしている。
Yさんは家族と一緒に、旅行や展示会にも積極的に出かける。HCR(国際福祉機器展)や万博など、遠方のイベントにも足を運び、装具と介護保険で借りている電動車いすをうまく活用しながら、体に負担の少ない方法で楽しんでいる。
また、Yさんは車の運転も工夫して片手でこなしているという。装具や車椅子、車があることで、遠くに出かける自由や、家族と過ごす時間の幅が広がっているのだ。
装具作製での工夫と挑戦
二本目の長下肢装具は理想の形に
Yさんは昨年、二本目の長下肢装具を作製した。一本目の長下肢装具は「歩きたい」という目的は実現できたものの、Yさんの歩き方に適合せず何度もつま先部分が割れるなどのトラブルが続いた。
また、調節可能な継手は大きく重く、装具の重量が気になっていた。1本目の長下肢装具は病院で営業専門の義肢装具士を通じて製作されたため、細かい希望や意図が製作者に十分伝わらず、満足のいく結果にはならなかった。
そこでYさんは二本目の装具作製に際し、直接製作所に出向き、自分が困っている点や希望する仕様を詳細に伝えた。結果、歩きやすさや軽さ、使いやすさを考慮した、より自分に合った装具が完成した。
Yさん自身が機械系エンジニアであったことも大きな力になった。図書館で装具に関する専門書を借りて勉強し、知識をもった上で製作者と意思疎通を図れたことで、より正確に自分のニーズを伝えることができたのだ。
この経験から、Yさんは装具作製は使う本人と製作側の細かな意思疎通が鍵であり、装具の性能を最大限に引き出すために重要だと知った。
しかし、実際にその意思疎通を実現するのは非常に難しく、製作側と使う本人の双方に理解と工夫が求められることを痛感している。
直面した困難と障壁
Yさんが二本目の装具作製で製作所に直接出向いた背景には、病院側の事情もあった。
一本目の装具を作った総合病院から、主治医がクリニックに変わったことで、装具を扱う会社も別の会社で作らなければならないと言われたのだ。
しかし、Yさんは前回の装具の良いところと改善したいところをしっかり引き継ぎ、次に生かしたいと考えていた。そのため、病院を通さず、自ら車で約1時間かけて製作所に出向いて、以前と同じ製作所で装具を作ってもらう手段を選んだ。
Yさんのように自家用車を使える環境であれば実現可能な方法だが、交通手段が限られていたり製作所がもっと遠方だった場合、同じような装具作製は難しかったかもしれない。
病院と製作所の関係は重要である一方で、装具を使う本人が困るような状況が生じていることは問題だとYさんは感じている。
装具に求めること
最後に、自身の装具において最も重視するポイントは?と聞くと、こう答えてくれた。
「①装具のデザイン
②重量(軽い方が良い)
③目的に合っていること」
①装具のデザイン
装具を身につけても、外を出歩くことに抵抗を感じない見た目であることが大切だ。
Yさんは金属がむき出しになっているデザインが嫌だったため、プラスチックで覆って見えなくし、色も黒を選んだ。
外出の際に装具の見た目が気になると、せっかく歩く自由があっても出かける気が失せてしまうからだ。
②重量
日常生活を送る上で、装具の軽さは快適さに直結する。Yさんの二本目の装具は一本目に比べ軽量化され、とても使いやすくなったという。
③目的に合っていること
装具は単に体を固定するものではなく、本人の目的を叶えるものであることが重要だ。
Yさんの場合、「歩ける装具にしてほしい」という希望を伝えたからこそ、拘縮予防のがちがちに固定する装具ではなく、歩行をサポートする装具が作られた。
Yさんにとって、装具は生活の質を高める道具であり、見た目や軽さ、目的に沿った機能が揃って初めて意味を持つ。
Yさんの話を聞き、装具の製作者である私も、改めて考えさせられた。装具は使う人の生活の質を高め、自分らしい日常を支えるためのものであること。見た目や軽さ、目的に合わせた設計の重要性を、Yさんの実体験から強く実感したのだ。
装具を作製を通して考える「意思疎通の大切さ」
長年の装具使用の中で、Yさんは歩く自由を諦めず、装具のデザインや軽さ、目的にこだわりながら、自分に合った装具を追求してきた。
その過程では、装具作製における困難や障壁も多かったが、自ら知識を身につけ、製作所と直接意思疎通を図ることで、希望する装具を形にすることができた。
ただ、誰もがYさんのように専門知識や行動力を持っているわけではない。だからこそ、装具使用者が自分に合った装具を実現しやすい環境が大切だ。
義肢装具士と気軽に意見交換できる場や、希望や困りごとを伝えやすい仕組みがあれば、より多くの人が快適で生活に合った装具を使えるようになるだろう。
この話が、装具を使う人やその家族、そして装具を製作・サポートする医療従事者にとって、生活に本当に寄り添った装具の在り方を考えるきっかけになれば嬉しい。
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この連載では、装具とともに暮らす方々のリアルな声を届けています。
「自分の経験も誰かの参考になれば」と思ってくださる装具ユーザーさんがいれば、ぜひご連絡ください。
装具を通して見える日常や思いを、あなたの言葉で聞かせてください。
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