こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。
装具を使っていると、日中の使い方はなんとなくイメージができても、「寝るときはどうしたらいいの?」と迷う方は多いです。
つけたまま寝るのが正しいのか、それとも外して寝るべきなのかは、装具の種類や目的によって変わってきます。
この記事では、装具を就寝時に使う場合と外す場合の違いをわかりやすく解説していきます。
就寝時に装具を着ける理由
関節の変形予防
就寝時に装具をつける理由のひとつは「関節の変形予防」です。
人は眠っているあいだ、無意識に手足の筋肉がこわばったり、同じ姿勢で関節に負担をかけ続けてしまうことがあります。
特に脳卒中後の麻痺や神経・筋疾患がある場合、日中の関節運動が少ないので、放っておくとだんだん曲がったまま固まってしまう「拘縮」や「変形」につながります。
脳卒中で特に気をつけないといけない変形を下にまとめました。
起こりやすい変形(手)
- 指の屈曲拘縮
手のひら側に指が丸まって固まってしまう状態。握ったまま開きにくくなり、細菌が繁殖しやすかったり日常の動作が難しくなります。 - 親指の内転変形
親指が人差し指の方向に倒れ込むように変形すること。つまむ動作や物を持つ動作が難しくなります。 - 手首の掌屈変形
手首が手のひら側に曲がったまま固まってしまう状態。手が使いにくくなります。
起こりやすい変形(足)
- 尖足
足首が下方向に伸びた状態。踵が床につかず、つま先立ちのような姿勢になる。歩行の安定性が失われ、転倒リスクが高まる。 - 内反足
足首が内側にねじれる状態。尖足と同時に起こることが多く、その場合は内反尖足と呼ぶ。足の外側(小指側)で体重を支えるため、タコや痛みなどのトラブルが出やすい。 - 足指の屈曲変形(クロートゥ)
足の指が曲がって丸まってしまう状態。靴に当たる部分が痛んだり、マメやタコができやすい。
昼間の装着だけでは変形が進んでしまうと判断した場合や、そもそも就寝姿勢でいることが多い場合は、装具を就寝時も使用することがあります。
夜間のトイレなど
夜間に何度もトイレに行く場合は、装具をいちいち着けていると間に合わない、という理由で就寝時も装具を着けたままにすることがあります。
夜中にトイレに行く際、部屋が暗い上に介助の手がないことが多く、転倒リスクが高くなります。
実際に高齢者の転倒の三分の一は、夜間に起こっているという報告もあります。
就寝時にも装具を装着することは、次に説明するように皮膚トラブルなどの心配もありますが、安全性と照らし合わせて装着を検討する必要があります。
就寝時に装具を外す理由
脳卒中などの装具を処方された際「就寝時は外すように」と言われたけれど、その理由までは説明されていないことも多いのではないでしょうか。
装具を外す理由がわかれば、変形予防や夜間の転倒リスクと照らし合わせて、装着時間を決めることができます。
皮膚トラブルの予防
装具は変形を予防したり、歩行を補助することが目的なので、プラスチックや金属などの硬い素材でできています。
そのため、就寝時に同じ姿勢で皮膚に硬い装具が当たっていると、褥瘡(床ずれ)のようになってしまう危険性があります。
人間の片足の重さは約15%、つまり体重65Kgの人なら約10Kgの重さが、皮膚にかかり続けることになります。
そのため、足の装具を就寝時も着けておきたいような場合は、必ず何か対策をしておく方が良いでしょう。
ちなみに、手の装具や子供の装具では、就寝時に着けていてもトラブルが起きにくいです。その理由は、重さによる負担が少ないからです。
快適な睡眠時間
コルセットや骨折用の装具で、就寝時も着ける必要があったとしても
「装具なんか着けてたら寝られへんわ!」
とおっしゃる方も多いですが、それもそのはず。
寝るときに着る寝間着や靴下、寝具が睡眠の質に大きな影響を及ぼすとも言われています。
無機質なプラスチックや金属でできた装具は、睡眠に良い影響を与えるはずがありません。
もちろん、寝てしまったら全然気にならないという方もいるので、個人差はありますが、毎晩のことなのでもし就寝時も着ける必要があるなら、なるべく快適な素材を選択する必要があります。
寝るときに装具を着けるか、外すかの判断目安
以上の、就寝時に装具をつけるメリット、デメリットを考慮したうえで装具を寝るときに着けるかどうかを判断しましょう。
Yさん
私の子供は拘縮予防のために、両足にプラスチックの短下肢装具を着けています。
本人は特に痛みを訴えないのですが、朝起きて装具を外してみると皮膚が赤くなっていることがたまにあって心配です。
なるほど、本人に皮膚の感覚がない場合は判断が難しいですね。
拘縮予防という意味では、装着時間は長ければ長いほど良いのですが、装具の内張り(内側のクッション)はついていますか?
Yさん
はい、装具の内側は柔らかいクッションで覆われています。
ただ、クッションは取り外しができないので、夏場は暑そうだし蒸れも気になります。
クッションは肌あたりが良いのですが、蒸れや汗を吸って不衛生になってしまうのが問題ですね。
クッションはマジックテープなどで取り外しが可能なものもあるので、そういった工夫をしてもらってもよいかもしれませんね。
クッションがついていても、たまに皮膚が赤くなってしまうようなときはどのように対応していますか?
Yさん
肌に赤みが出た時は一旦外して、赤みが引くのを待ってからまた着けるようにしています。
とても良い使い方ですね。毎日のことなので、絶対に着け続けないと、と意気込むよりはたまには装具を外して休憩する日があっても良いと思います。
ただし、赤みが続く場合や同じ場所がいつも赤くなるような場合は、装具が当たっている可能性があるので、義肢装具士に相談してみてくださいね。
寝る時に装具を着ける場合の注意点
皮膚のチェック方法
就寝時に装具を着けておくことで、トラブルが起きやすい皮膚の部位を知っていると、確認がしやすくなります。
イラストに示したように、装具の縁に当たる部分や骨が出っ張ている部分は要注意です。
姿勢の工夫
寝ている間に姿勢を崩して足や手が装具の下敷きになってしまうことを防ぐため、使える姿勢保持グッズを紹介します。
理想的な足枕アシモッチ
寝ている間に姿勢が変わっても、足が落ちてしまわないような大き目の足枕がおススメです。
高さ調節ができるのも嬉しい。
ジェル素材の無重力フットピロー
低めの高さで幅広く足を支えてくれる足枕。
エラストマーと低反発素材で足にフィットするデザイン。
床ずれ防止かかとあてクッション
柔らかいクッションで足を守る。夜に装具を着けられない日はこれで拘縮予防を助ける。装具の上から着けても足の接触を防げる。
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おすすめポイント
- 足だけを効率よく保護
- 寝返りでもはずれにくい
- 通気性の良いコットン素材
就寝時に使う場合の装具の工夫
内張りの工夫
寝るときに装具を使いたい場合は装具の内側に貼るクッション(内張り)があった方が、肌あたりが良く皮膚トラブルが出にくいです。
クッションはぶ厚すぎると装具自体が大きくなって、靴が履けないなど日中の使用で不便が出ることがあります。
一方、クッションが薄すぎたりスカスカでヘタりやすい素材だと、皮膚の保護が不十分になってしまいます。
クッションの素材一つで快適さが変わるので、しっかりと検討して決めましょう。(といっても、決めるのはたぶん義肢装具士側ですが…)
汗をかいてクッション材が汚れたりにおいが気になるようであれば、取り外し可能なデザインで洗えるようにするなどの工夫もあります。
形状の工夫
寝るときに使う装具はできる限り接触面積が広く、支える力を分散できる仕様が良いでしょう。
たとえば、オルトップのように足裏全体を覆わないようなデザインだと、装具の縁で傷を作ってしまうことが多いです。
また、下腿部もふくらはぎをすっぽり覆うようなデザインで、表面全体で足を支えられる方が局所的な圧迫が避けられます。
長時間着ける装具はあまり無理な角度矯正をしない、というのもポイントの一つです。
以上のように、就寝時にも使う装具というのは日中だけの装具と違った工夫をしなければいけません。
そのため、装具を作るときに就寝時にも装具を使うことを、必ず伝えておきましょう。
就寝時に装具をつけるか外すかは、人によって目的も状況も違います。
関節を守ることを優先する場合もあれば、皮膚や眠りの快適さを大事にする場合もあります。装具は我慢してつけるものではなく、生活を助けてくれる道具です。
迷ったときは医師や義肢装具士に相談して、自分に合った使い方を一緒に見つけていきましょう。
装具の修理・作製のご相談は装具ラボSTEPsホームページ内の問い合わせフォームよりお待ちしております。
生活期専門補装具製作所「装具ラボSTEPs」は神戸を拠点に活動していますが、今後は全国各地に拠点を作って装具に困っている人をゼロにすることを目指しています。
気になった方は、装具ラボSTEPsで検索してみてくださいね。
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