こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。
カーボンというと一般的に軽くて強いイメージがあるかと思いますが、そのカーボン素材を装具に使うことでどういった効果があるのか解説していきます。
今回も架空の理学療法士さんZくんに登場してもらいましょう。
カーボン製の装具とは?
「カーボン製」と書きましたが、詳しくはカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)を使った装具のことを、ここではカーボン製短下肢装具と呼んでいきます。

CFRPは知っています。ゴルフクラブやテニスラケットなどのスポーツ用品、あと車や飛行機などの乗り物にも使われていることがありますよね。
とにかく、カーボン製というと高品質なイメージがありますね。
そうです!カーボン繊維は他の材料に比べて、軽くて強い性質を持ちます。軽量なのに金属と同じぐらいの強度が出せるので、装具を軽量化するためにも使われます。
一方で、カーボン繊維は素材自体が高級というよりも、加工が非常に難しいのでその分加工にコストがかかって、製品が高価になる傾向があります。
装具に関しても、あらかじめシート状に加工されたプリプレグカーボンシートを使う方法や、カーボン繊維を樹脂でラミネートする方法がありますが、どちらの方法も手間と技術が必要になります。

なるほど、カーボン製品はただ高級なだけではなく、加工に高い技術が必要なんですね。
そういえば、カーボン製装具といって一番に思いつくのは、あらかじめ形状が決まった既製品のカーボン製装具ですね。
そうですね。加工にコストがかかるためオーダーメイドのカーボン製装具となると、非常に高価なものになります。
もちろんそれでもオーダーメイドが必要となれば作る場合がありますが、比較的手軽に試すことが出来る既製品のカーボン製短下肢装具の方が使用頻度は高いのかもしれませんね。

それにしても、回復期リハビリ病院で長く勤務していますが、一度もカーボン製短下肢装具を扱ったことはありません。
あまり回復期リハビリテーション向けではないのでしょうか?
確かにそうですね、脳卒中のように回復期において身体状況が大きく変化する可能性がある場合、カーボン製の装具はお勧めできません。
なぜなら、既製品にしてもオーダーメイドにしてもカーボン製品は非常に加工がしにくいため、プラスチックのように温めて一部を広げるとか、必要ない部分をカットするといったことが基本的にはできません。
ただし、後で説明するカーボン支柱を使ったRAPSやカーボンアンクルセブンなど一部にカーボン製品が使われているような場合、カーボン以外の部分が調整可能なので、回復期でも多く使われています。
それに、前述したようにカーボン製品は他に比べて高価です。そのため日常生活において本当にカーボン製装具が必要なのかを見極めるには、少し時期が早すぎるようにも思います。
それでは、ここからは既製品のカーボン製短下肢装具や、既製のカーボン支柱を使った短下肢装具をご紹介していきます。
WalkOn(ウォークオン)シリーズ
既製品のカーボン製短下肢装具で一番使用される頻度が高いのが、OTTOBOCK社のWalkOnシリーズです。
WalkOnシリーズには「ウォークオントリマブル」「ウォークオンリアクション」「ウォークオンリアクションジュニア」の3種類があります。
それぞれの特徴は下の図をご覧ください。

すべて適応は「軽度から中程度の麻痺による背屈機能の低下」と書かれており、海外で認可を受けた適応症としては「脳卒中」「外傷性脳損傷」「多発性硬化症」「神経筋委縮症」「腓骨神経まひ」があります。
足首をしっかりと固定するような機能はないので、筋緊張が高かったり変形があると使用が難しいです。
装具と足のフィット感を高める薄手のストラップが付属されますが、痙縮を抑え込むほどの力は期待できません。
軽量で反発力が強く耐久度が高いことがメリットなので、歩く機会が多く活動的な人に適します。
また、素材が非常に薄いので、靴が履きやすいのもメリットです。
カーボン製装具のメリットデメリットは下の表にまとめておきました。
【カーボン製装具のメリット】
- 軽量
- 反発力が高く、自然な蹴りだしを補助する
- 耐久度が高い
- 薄くて靴が履きやすい
【カーボン製装具のデメリット】
- 高価
- 加工が難しいので形状の調整が困難
- 既製品では変形・痙縮が強いと使用できない

後遺障害を持って仕事をしている人や、学校に通っている人、軽いスポーツやウォーキングを楽しんでいる人に最適な装具ですね。
これは試着ができるのですか?
はい、メーカーで試着品を用意してあるので、お近くの製作所に問い合わせてみてください。
サイズは割と細かく設定されているので、可能であれば2サイズぐらい試してみた方が良いかと思います。
詳しくはオットーボックホームページでご確認ください。
カーボンアンクルセブン
シンプルで軽量なカーボン支柱で、足継手の機能を備えたパーツ。
支柱以外の部分(足部と下腿部)はプラスチックでも靴型装具と下腿カフでも、どの組み合わせでも作ることが出来ます。
軽くてシンプルで目立ちにくいのが特徴で、子供用の装具として多く使用されています。
サイズ展開が豊富で成長に合わせて変えていくことが出来ます。

こちらも靴取り付けタイプがメーカー取り寄せで試着可能なので、気になった方はお近くの製作所にお問い合わせください。
詳細はオットーボックホームページにてご確認ください。
RAPS(ラップス)
カーボン製装具と言ったらRAPSが思いつく方もいるかと思いますが、正確にはRAPSはカーボン支柱と調整機能付き足継手を使った短下肢装具のことです。
下腿カフ部分と足部はプラスチックで作られていることがほとんどです。(※カフと足部もカーボン素材を使って作製することも可能)
カーボン支柱は4段階の硬さが選べて、足継手は底背屈50度の調整範囲があり、ほぼダブルクレンザック継手と同等の調整機能を持つのが特徴です。

足継手の調整範囲が広く、レンチがあればその場で調整可能なので、回復期リハビリ用の装具としても多く使われています。
ただ、ダブルクレンザック継手は視覚的に調整方法がわかりやすいのに比べて、RAPSはぱっと見では、どう調整していいのか見当がつかないと思います。
そのため、病院では上手く使えていたけど、在宅に帰って長期使用している間に角度が変わってしまって、だれも調整できない!ということがありえます。

確かに、ダブルクレンザックはなんとなく調整方法が理解できますが、RAPSはまずどこにレンチを突っ込んでいいのかわからないので、下手に触れられない気がしますね。
在宅に帰ってからも使うことを考えると、定期的なメンテナンスは必須ですね。
以上が、カーボン製短下肢装具の説明でした。
「カーボン」と一言で言っても、フルオーダーメイドの装具と既製品の装具、装具全体にカーボンが使われているのか、それとも継手や支柱に使われているのかで特徴は大きく変わってきます。
何はともあれ、カーボンは強くて軽くて反発力が高い、装具にぴったりの素晴らしい素材なので、もっともっと多くの方に届けられるよう願っています!
装具の修理・作製のご相談は装具ラボSTEPsホームページ内の問い合わせフォームよりお待ちしております。
生活期専門補装具製作所「装具ラボSTEPs」は神戸を拠点に活動していますが、今後は全国各地に拠点を作って装具難民をゼロにすることを目指しています。
気になった方は、装具ラボSTEPsで検索してみてくださいね。
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