「進化する義足、取り残される現場」ー痛みと闘い、義足の常識を問い直したGさんのストーリー

義肢装具ユーザーのリアルストーリー

こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。

今回の記事は、Xを通じて出会った義足ユーザーGさんへの取材をもとにまとめたものです。

『義足』といえば、最新のテクノロジーを搭載した義足や、パラリンピックで力強く走るアスリートの姿が注目を集めています。

けれど、その陰で「歩くことさえままならない」現実と向き合いながら、日々奮闘している義足ユーザーがたくさんいます。

Gさんもその一人です。事故による切断から12年、痛みと調整の繰り返しで「いつ痛くなるかわからない日々の恐怖」「義足を作る人がいなくなっていく不安」の中、戦ってきた義足ユーザーの現実を、語っていただきました。

記事内では、プライバシーに配慮し、お名前や所属、地域など個人が特定される情報は伏せています。

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切断までの経緯と初めての義足

切断までの経緯

今から12年前、Gさんはバイクでの走行中に相手側の過失による交通事故で大怪我を負った。

右下腿は損傷が激しく、最初は不全切断で温存を試みたが、骨髄炎や偽関節を併発し、約1年半後に切断を決断。

切断を決めた後、Gさんは「どうすればまた歩けるのか」自ら情報をかき集めた。

そして、国内でも有数の義足製作件数を誇る製作所を選び、そこで義足を作ってもらうために主治医に申し出て、病院を転院した。

「有名な義肢装具製作所で作ってもらえば、きっと良い義足を作ってもらえる。」と信じての選択だった。

初めての義足

転院後に初めて作った義足は、装着して3日目で断端だんたん(切断された部位)に傷ができ、歩行どころではなかった。

Gさんの断端は、事故後の手術で植皮しょくひ(損傷した皮膚を別の皮膚で覆う手術)を行っているため、通常の皮膚より傷ができやすく、一度傷ができると皮膚が再生するのに1週間以上かかってしまう。

そのため、義足を着けて傷ができると、治るまでの期間は義足を履くことができない。

傷が治るのを待って、義足を調整してもらい、再び履いてみても、今度は痛みで体重をかけられない。

痛みと傷の繰り返しで、義足を履いてのリハビリは思うように進まなかった。

そうこうしているうちに、入院できる期間の上限である180日が過ぎ、義足を履いたリハビリをできないまま退院を余儀なくされた。

厚生労働省が定める回復期リハビリテーション病棟入院基準について

脳血管疾患、脊髄損傷、義肢装着訓練を要する状態の場合、回復期リハビリテーション病棟への入院期間は最長180日間と定められています。(その他、運動器疾患は150日間、呼吸器疾患は90日間などと疾患別に決まりがあります。)
入院期間は延長ができず、退院後は通院でのリハビリテーションに切り替わります。

訓練用義足から本義足へ

退院後も、Gさんは車で30分ほどかかる義肢製作所に通いながら、義足の調整を続けた。

それでも、痛みが消える気配はなく、立つたびに痛みが走る日々が続いた。

そんな調整を繰り返す中で、義肢装具士から「そろそろ今の訓練用義足から、本義足に作り替えましょう」と提案される。

訓練用義足(仮義足かりぎそく)とは
切断後、初めて作る義足で訓練を目的としたものを、訓練用義足(仮義足)と呼びます。医療保険・または労災保険に申請することで、費用の一部もしくは全額が還付されます。装具で言う、治療用装具に当たるもの。

更生用義足(本義足ほんぎそく)とは
仮義足製作後に、日常生活で使う目的で作る義足を、更生用義足(本義足)と呼びます。障害者総合支援法または労災保険で、支給申請することが出来ます。装具で言う、更生用装具(生活用装具)にあたるもの。

再び採型を行い、期待を込めて本義足を作ったが、結果はさらに厳しかった。痛みはむしろ強くなり、調整と作り直しを何度も繰り返しても、状態は良くならなかった。

そしてついに担当の義肢装具士から「あなたの断端は適合が難しい」と言われ、匙を投げられてしまった。

期待して通い続けた製作所から見放され、Gさんはまた製作所探しからスタートすることになった。

痛みのない義足を探し求めて

その後、通える範囲で探した2社の製作所を訪れ、義足の採型をしてもらった。

それぞれの製作所に「2社で採型をお願いしているから、仮合せの適合が良かった方に作製をお願いしたい。」と率直に申し出た。

採型方法も作り方も製作所によって異なるため、技術はもちろんだが相性の見極めも重要である。

片方の製作所での仮合せは、初めから前回同様に痛みがあった。

もう片方の製作所では、仮合せで義足に痛みなく体重をかけられる感覚があったので、そちらにお願いすることにした。

しかし、新しくできた義足を使ってしばらくすると再び傷ができてしまい、結局は満足に歩くことが出来る義足にはならなかった。

そこでGさんは、Facebookを通じて知った他県の義肢製作所を訪れることにした。そこには、たった一人で多くの義足を手掛ける熟練の義肢装具士がいた。

遠方だったため、3泊4日で採型と仮合わせを行い、チェックソケットを8個作るなど、痛みの原因を模索しながら熱心に調整した。

その結果、初めて「痛みのない義足」を手に入れることができた。

痛みなく歩ける毎日を手に入れるための探究

断端が変化し、また暗闇へ

やっと手に入れた痛みのない義足も、半年ほどで断端の形状が変化し、フィッティングが悪くなってしまった。

再び他県の製作所を訪れ、義足の作り替えを試みた。3泊4日の遠征を二度繰り返して、義足の作り替えを行ったが、結局以前のようなフィット感は再現できなかった。

切断した断端は年月とともに、変化する。骨を覆う脂肪部分が徐々に減ることで、日々義足のフィッティングが変化してしまう。

苦労して手に入れた痛みのない生活が再び失われてしまったことで、Gさんは精神的にも大きく疲弊していた。

辿り着いたセルフフィッティングの道

それまで続けていた他県への遠征は諦め、近隣の製作所をいくつも渡り歩きながら、義足を作ってもらう日々が続いた。

朝、義足を履いてみてフィッティングが悪いときは、自分で調整するしかない。調整用のパッドを送ってもらって、自らいろいろな調整方法を試した。

そうしているうちに、自分の中で「こうすればうまくいくのでは」という独自の理論ができあがってきた。

それは、義足の教科書や一般的な知識とは、まったく異なるものだった。

その後、Gさんは自分で編み出した理論を義肢装具士に丁寧に説明し、実践してもらうことで、ある程度のフィッティングを再現できるようになった。

義肢装具士の中には、元々の一般的な知識から抜け出せない人や、ユーザーの声を正面から受け入れない人、対応途中で心が折れてしまう人など、さまざまなタイプがいた。

しかし、唯一、近隣の製作所でGさんの理論に耳を傾け、面白がって義足の調整にいつまでも付き合ってくれる義肢装具士を見つけることができた。

以降、Gさんはその人を頼りにしながら、自分の生活を支える義足の調整を続けている。

Gさんの経験から学ぶ、義肢装具士の役目

Gさんは想像を絶する努力を重ね、自身の理論を構築し、信頼できる義肢装具士と出会うことで歩行を取り戻すことができた。

しかし、これは単なる苦労話で終わらせてはいけないと思う。

義肢も装具も適合理論は、資格制度ができた約40年前から、根本的な部分ではほとんど変化していない。

パーツや外観が進化しているように見えても、根っこの理論は過去のままという現実がある。

これからの義肢装具士に求められるのは、ユーザーの声に耳を傾け、適合した義肢装具を分析・研究して、理論を更新していくことだ。

凝り固まった考え方に固執せず、新しい知見や考えを認めること。

そして、それらを言語化して、次に同じことで苦労する人が一人でも減るようにすること。Gさんの経験は、その大切さを私たちに強く教えてくれている。

制度と現場のギャップが生む危機

適合の難しさと報酬の壁

今回のようなGさんの義足作り替えは、通勤中の事故による労災保険の適用があったからこそ、短い期間でも作り替えが可能だった。

しかし、通常の事故や病気で障害を負って障害者自立支援法が適用された場合、同じように作り替えが出来ない場合もある。

また、義肢装具の適合は、1回の採型でうまくいく症例もあれば、5回採型しても上手くいかない症例もある。どちらも、作るものが同じであれば対価は変わらない。

この状況が、適合の難しい生活期の義足や装具を担当する義肢装具士が減少する現実につながっている。結果として、義肢装具ユーザーが必要な支援を受けられないリスクも生じているのである。

作り手がいなくなる不安

実際にGさんは、今まで4社以上の製作所で義足の作製を断られている。

特に近年、物価高騰により義肢装具の基準価格にずれが生じて、義肢装具業界を取り巻く環境は非常に厳しい。

経営状況の悪化を理由に、利益率の低い義肢部門の業務縮小が行われることで、義足の作製を断られるケースが増えているという。

加えて、義肢装具士の年収の低さや厳しい待遇は、転職サイトなどでも広く語られており、義肢装具士のなり手不足に拍車がかかっている。

Gさんに「今、もっとも医療業界に求めることは?」と尋ねると、意外にも義肢装具士の待遇改善を求める声が返ってきた。

様々な困難を乗り越えて歩行を取り戻せたのは、自身の理論を具体化してくれる義肢装具士の存在があったから。

義肢装具士は義足ユーザーにとって不可欠な職種であり、多くの人が望んで目指す職業であってほしい、とGさんは語った。


義足の進化が本当の意味で人を支えるものになるためには、先端技術だけではなく、人と向き合う現場の知恵と探究心が必要だ。

Gさんの経験は、これからの義肢装具業界に必要な姿勢と、その歩みを阻む制度の壁を明確に示している。

この記事を読んで、一人でも多くの人が義肢装具の現実を考えるきっかけにしてほしい。

最後になりましたが、取材をお受けいただいた、ぎそけんさんのXアカウント(@amputee_dampty

)も一緒にチェックしてみてください。

植皮短断端のぎそけん
~死ぬまで義足の適合と戦う男~
Xアカウント名:@amputee_dampty

Xプロフィール

正論でぶん殴るスタイルですが傾聴と共感も大事にしてます。2015年交通事故で下腿切断。デグロービングにより骨張った植皮だらけの短断端ゆえに義足難民に。ベテランPO8名ほどに依頼したが適合ならず自己研究へ。既存義肢学を超えてミクロな視点で下腿義足の適合理論を研究。アップデートを続け適合を維持する努力をしております。

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義肢装具ユーザーのリアルストーリー
この記事を書いた人
義肢装具士 三浦奈月

2024年春に暮らしに寄り添う補装具製作所『装具ラボSTEPs』を開業
神戸・阪神・播磨地域を中心に在宅や施設への訪問を主として、生活期における装具の修理や作製を行っています。
相談やご依頼はホームページの問い合わせフォームからお願いいたします。

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