こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。
今日は、日ごろあまりお目にかかることがない超高機能な長下肢装具について、いったいどんなものなのか、どういった人に適するのかをご説明していきます。
今回ご紹介するのは、OTTOBOCK社の「C-Brace」(2020年認可)と「E-MAGアクティブ」(2024年認可)です。
どちらも長下肢装具の膝関節部分に使用するパーツなのですが、日本国内で使用している人はほとんど見たことがありません。
それもそのはず、2020年に国内で認可を受けた「C-Brace」は継手価格だけでなんと370万円!!
目玉が飛び出るような金額ですが、ここまで高価なものだとその機能性が気になってきますよね。
前提として、これらの高機能な長下肢装具は急性期・回復期のリハビリ目的ではなく、生活期で日常の移動手段として長下肢装具を使っている方が、より活動範囲を広げて生活を豊かにするために使う装具と考えてください。
では、架空の人物「理学療法士Zくん」と一緒に、最先端装具について学んでいきましょう。
C-Braceとは
C-Braceの見た目

Zくん
普通の固定式の膝継手を使った長下肢装具しかみたことがないのですが、C-Braceは見た目がかなり違うんですか?
Zくんが言っているのは、固定と解除を手動で切り替えれるリングロック膝継手ですね。
基本的な長下肢装具の解説はここでご紹介しているのでご覧ください↓
そして、こちらがC-Brace膝継手を使った長下肢装具の見た目です。


Zくん
かっこいいですねー!高機能な義足みたいな見た目ですね。
ちょっと重そうな感じもしますが…。
まさに、OTTOBOCKは義足パーツをメインで作っているので、その機能を装具に応用したものがC-Braceです。
重量は継手だけで約1㎏です。普通のリングロック継手が300gぐらいなので、3倍ぐらい重いですね。
その分、重くならないように他の部分はカーボン材での作製が推奨されています。
C-Braceはどんな人が使えるのか

Zくん
気になるのは、どんな人が使えるのかですね。
もしこれで麻痺のある人が簡単に歩いたり走ったりできるなら、400万でも十分価値があると思いますが。
それが残念ながら、だれでも簡単に歩いたり走ったりできるわけではないんです。
C-Braceの適応を以下にまとめました。
C-Braceの適応
- 弛緩性の麻痺(痙縮など筋肉の不随意な緊張がほとんどない)
- 自力で足を前に振り出すことができる
- 膝と股関節に大きな角度制限がない
- 体重が125Kg未満
- 脚長差(足の長さの差)が15cm未満
これらの適応条件を満たしている人で、実際に評価用の試着機で適応があると評価された人だけが使うことが出来ます。

Zくん
これはかなり狭き門ですね💦
弛緩性麻痺ということは脳卒中や脳性麻痺の方は、適応外となる場合が多そうですね。
その通りです。適応疾患例としては「脊髄損傷」「ポリオ」「末梢神経障害」などが挙げられています。
どんな機能が備わっているのか

Zくん
それにしても継手だけで370万円というのはかなり驚きの金額です。
いったいどんな機能が備わっているのですか?
C-Braceにはマイクロプロセッサー(コンピューターの中核部分)が搭載されており、常に装着者の歩行状態を検知します。
検知した情報をもとに、継手に内蔵された油圧シリンダーの抵抗値をリアルタイムで調整し続けます。
それによって、膝を曲げた状態で体重をかけて坂道を下る、段差を乗り越える、階段を左右交互に降りるなどの今まで不可能だった動きが実現します。
その他の注意事項や詳細な機能はオットーボックホームページからご覧ください。
E-MAGアクティブとは

Zくん
C-Braceは正直使いこなせるユーザーさんが少ないように感じました。
膝を曲げて歩けるというのは良いと思うけど、もう少し手ごろな金額で扱いやすい膝継手はないのですか?
はい、実はあるんです!
2024年に国内で認可を得たばかりの最新の膝継手E-MAGアクティブはシンプルな仕組みで膝をロック&解除できて、サイズもお値段もコンパクトです。
継手価格はC-Braceの10分の1で約30万円!
といっても、付属のバッテリーやコントローラーの金額を合わせると結局50万ぐらいはするのですが…

Zくん
C-Braceに比べたら安いように感じますが、それでも普通の膝継手に比べると高級ですね。
見た目はどんな感じですか?
E-MAGアクティブの見た目
見た目はこんな感じで、継手の大きさとしてはそんなに大きく感じないと思います。

実際に膝のロック&解除を制御する「膝継手」部分と、その上(太ももの外側)にコントローラー、バッテリーが備わっています。

Zくん
バッテリーやセンサーが内蔵されている割に、見た目はそんなに普通の長下肢装具とかわらないですね。
これなら、今まで普通の長下肢装具を使っていた人も抵抗がなさそうです。
E-MAGアクティブはどんな人が使えるのか

Zくん
E-MAGアクティブはどういった方が使えるのでしょうか。
適応はC-Braceとほぼ同様で、痙性麻痺のない方に限られます。また、太ももの角度で歩行を検知しているので、しっかりと股関節を曲げ伸ばしして歩ける方が適応になります。
E-MAGアクティブの適応
- 制御が難しいほど高い痙性がない
- 体幹が安定していて足を前に振り出すことができる
- 股関節の屈曲拘縮がない
- 膝関節の屈曲拘縮15度以下
- 体重が100Kg以下

Zくん
E-MAGアクティブも脳卒中や脳性麻痺の方は、適応外となる場合が多そうですね。
そうですね、基本的な適応疾患例としては「脊髄損傷」「ポリオ」「末梢神経障害」ですが、C-Braceよりは痙性に対する記述は緩くなっています。
歩いている途中の股関節の屈曲伸展が十分に出るかどうかが、一番大きなカギになると思うので、練習次第なところもあるかもしれませんね。
どんな機能が備わっているのか

Zくん
機能としてはC-Braceの機能を、必要最小限にした感じでしょうか?
C-Braceの機能を最小限にしたのがE-MAGアクティブというイメージは間違いではないのですが、よく見てみると機能としては全然別物です。
C-Braceは歩いてる間ずっと歩行周期を検知して膝の抵抗を適切に調整しているのに対して、E-MAGアクティブは遊脚相(足が床を蹴って前に振り出して再び床に着くまで)の太ももの角度を検知して、膝が曲がるべき時に曲がるようにロック&解除を行います。
難しい話はさておき、E-MAGアクティブでは足をついた時に膝折れしないという基本的な長下肢装具の機能をそのままにして、
足を浮かしたときに膝が曲がることで、足を擦らないように大きくぶん回して歩いたり、骨盤を引き上げて無理に足を持ち上げるなどの、無駄な動作が減って身体の負担が減るというのが一番の利点です。
また、手動でのロック&解除が簡単にできたり、手動でサイクリングモードに切り替えたりできるのも、E-MAGアクティブの魅力の一つです。

Zくん
とても勉強になりました。
高機能な長下肢装具を使うことで、歩けない人が歩けるようになる、というよりは従来の長下肢装具で歩けていた人が、より活動範囲を広げて、暮らしを豊かにするための装具だということがわかりました。
生活の質を上げるというのはまさにプライスレスですね。
ご理解いただけて良かったです。
私たち義肢装具士も広い視野を持って、それぞれの生活に適した選択肢を提示できるように日々勉強していこうと思います。
ご興味を持った方は、ぜひ義肢装具士にご相談ください。
装具の修理・作製のご相談は装具ラボSTEPsホームページ内の問い合わせフォームよりお待ちしております。
生活期専門補装具製作所「装具ラボSTEPs」は神戸を拠点に活動していますが、今後は全国各地に拠点を作って装具難民をゼロにすることを目指しています。
気になった方は、装具ラボSTEPsで検索してみてくださいね。
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