こんにちは、生活期専門の補装具製作所「装具ラボSTEPs」代表 義肢装具士の三浦です。
今回は生活の中で使われることの多い、硬性(プラスチック)短下肢装具(以下、プラスチックAFO)について解説します。
短下肢装具とは?
短下肢装具とは、簡単に言うと膝より下で足首の動きを支える装具です。これが膝を超えて太ももまでの長さになると「長下肢装具」と呼ばれます。
短下肢装具は大きく分けて「金属支柱つき」「硬性(プラスチック)」「軟性(革・布)」の3種類に分けられます。今回は硬性(プラスチック)短下肢装具についてご説明します。
金属支柱付き短下肢装具についてはこちら↓
軟性短下肢装具についてはこちら↓
【リンク準備中】
硬性(プラスチック)短下肢装具【プラスチックAFO】
プラスチックAFOは文字通り「プラスチック製の短下肢装具」です。
靴ベラ(shoehorn)のような形状という意味で、シューホンブレースと呼ばれることも多いです。
一般的にシューホンブレースというと、継手なしのプラスチックAFOを意味します。
※AFOとはAnkle Foot Orthosisの略で、短下肢装具を意味します。
プラスチックAFOの見た目と各部名称
上図はプラスチックAFOの見た目と各部の名称です。
各部の名称には地域性などもあり、いろんな呼び名がありますが、上図は厚労省の部品名称をもとに書いていますので、どこでも通用するはずです。
主要部分はプラスチック(ポリプロピレンまたはポリエチレン系材料)で作られています。
その他の消耗部品は革、合成皮革、ナイロン、布など様々な素材で作られることがあります。
プラスチックAFOの足継手に関しては、足継手としてのパーツがなく下腿部と足部のプラスチックが一体になっているものもあります。
その場合、プラスチック継手と呼ばれて、プラスチックが撓むことで継手の代わりをします。
つまり、見た目上、足継手がなかったとしても足首が完全に固定されているわけではないことは覚えておいてください。
プラスチックAFOのメリット・デメリット
以下にプラスチックAFOのメリットデメリットをまとめました。
もちろん、デザインによっては一概には言えませんが、以上がプラスチックAFOのメリットとデメリットです。
ここからは架空の装具ユーザーさんを例に出して、説明していきます。
脳卒中後遺症Aさんの場合
Aさん
私は病院でリハビリをしているときに金属支柱AFOをつくって、退院して一年経ってから訪問リハビリのセラピストさんの勧めでプラスチックAFOに作り替えました。
そうなんですね。生活期で装具を見てくれるセラピストさんは、私たち義肢装具士にとっても大変ありがたい存在です。
入院中は身体の変化が大きく、調整がしやすい金属支柱AFOを使用することも多いです。
退院後、身体の状態が落ち着いた後は、角度調整をこまめに行う必要がなくなり、金属支柱AFOが無用の長物となってしまうことがあります。
Aさんは今、どういったプラスチックAFOを使っていますか?
また、生活はどのように変化しましたか?
Aさん
私が今使っている装具はこちらです。
前の金属支柱AFOと比べて格段に軽くなったし、歩行時の騒音も減りました。
一番うれしいのは、スニーカーを履けたことですね。サイズはワンサイズアップしましたが、スニーカーで外出できるのは嬉しいです。
Aさんが使っているプラスチックAFOはフレキシブル(たわみやすい)タイプのシューホンブレースです。
フレキシブルシューホンで有名なのはオルトップシリーズ(パシフィックサプライ社製の既製品装具)ですが、Aさんの装具はオーダーメイドで作ったものですね。
オルトップシリーズの詳細はこちらの記事をご参照ください↓
踵が大きくくり抜いてあるので、靴が履きやすいのがメリットです。
シューホンなどの装具の上から履きやすい靴に関してはこちらでご紹介しています↓
身体状況によってはこのタイプでは歩きにくかったり、変形を助長する場合もあります。
装具の作り替えに関しては、試着品を試すなどして慎重に進める必要があります。
特に、気を付けていただきたいのが「膝折れ」「反張膝」「尖足」の三兆候です。
装具の作り替えに関する注意点は下記の記事にまとめていますので、参考にしてください↓
脳出血後遺症Eさんの場合
Eさん
私は若いころに患った脳出血の後遺症で、右足に麻痺があるの。筋肉の緊張が強いタイプだと言われていて、プラスチックAFOのベルトを工夫してもらって、いつもしっかり固定しているわ。
同じ脳卒中の後遺症でも症状は人それぞれです。Eさんは緊張が強いタイプなのですね。
緊張が強い場合は、金属支柱AFOが適すると言われることもありますが、身体状況とプラスチックの強度によってはプラスチックAFOでも十分に使用できます。
ベルトを工夫したとおっしゃっていますが、いったいどんな工夫がされているのでしょうか?
Eさんが今使っているプラスチックAFOを見せてもらいましょう。
Eさんが使っているプラスチックAFOはリジット(たわみにくい)タイプのシューホンブレースです。
足首のベルトは装具の中から外くるぶしを抑え込むように工夫されたT・Yストラップですね。
Eさんのように緊張が強いタイプの方は、足首が下方向(底屈)と内方向(内反)に向いてしまうことがあります。
それを抑えるためのベルトがT・Yストラップです。
※方向によってTストラップ・Yストラップと名前を使い分けることがありますが、ややこしいのでここでは総称してT・Yストラップと呼んでいます
Eさん
ベルトの先にリングをつけてもらって引っ張りやすくしたり、ふくらはぎの後ろにクッションを貼ってもらったり、いろいろ工夫してもらってるの。
プラスチックの柄も可愛くて、とっても気に入ってるわ。
なるほど、こだわりが詰まった素敵な装具ですね。
装具のデザインについては下記の記事にまとめていますので、参考にしてください↓
【リンク準備中!】
神経難病Fさんの場合
Fさん
私は神経系の難病を患っていて、両方の足首に力が入らない状態です。
装具がないと、足先を床に擦ったり、ちょっとした段差に躓いたりして危ないのでプラスチックAFOで足を支えています。
Fさんの場合、足の筋肉に緊張が入りにくい下垂足と呼ばれる症状ですね。
同じ下垂足でも、膝や股関節の状態や足首にどれだけ力が入るかによって適する装具は変わってきます。
人によっては、軟性の短下肢装具や前に紹介したオルトップなどを使用している方もいますが、FさんはプラスチックAFOを使っているようです。
どんなプラスチックAFOを使っているのか見せてもらいましょう。
Fさんが使っているプラスチックAFOは足継手付きのプラスチックAFOですね。
足継手はメーカーによっていろんなパーツがありますが、足首の上下の動きを可能にするタマラック継手のようです。
足首の後ろにあるストッパーで足首が下がってしまうのを制限しています。
下垂足のようにただ足首が下がってしまうような症状では、装具で足の動きを制限しすぎるとかえって歩きにくくなってしまうことがあります。
そんな時は足継手と呼ばれるパーツを使うことで、止めたい動きだけを制限することが出来ます。
また、ストッパーの種類によっては高さを変えることで角度を調整できるものもあります。
Fさん
そういえば、装具の仮合せの時にそのストッパーを調整してもらったら、足をついた時の感覚がすごく変わりました!
ちょっとしたことで歩きやすさは大きく変わるんですね。
そうなんです。生活期は維持期とも言われて身体の変化が少ないと言われますが、病気によっては進行することがあったり、加齢による筋力低下はだれにでも起こりうることです。
いつもと同じように装具を使っていても「なんだか最近歩きにくい」とか「歩いたり立ったりすると痛い」といった症状がでたら、相談できる場所があると安心ですね。
装具の修理・作製のご相談は装具ラボSTEPsホームページ内の問い合わせフォームよりお待ちしております。
生活期専門補装具製作所「装具ラボSTEPs」は神戸を拠点に活動していますが、今後は全国各地に拠点を作って装具難民をゼロにすることを目指しています。
気になった方は、装具ラボSTEPsで検索してみてくださいね。
コメント